2011年11月9日水曜日

ケビのおじぃと熊の森

ひさしぶりに、ケビオカ(兵庫県香美町村岡区)を訪ねる。














今回は、はるばる東京から
但馬の養蜂家を訪ねてこられた女性を案内しての訪問である。
初対面でもすっと意気投合し、女子4人で道中のおしゃべりもノンストップ。














「こんにちはー。来たよーー!!」
「久しぶりだぁねぁか、あんた。元気にしとんさったんか。」
笑顔で出迎えてくださるお兄さんと弟さん。お元気そうで、ほっとする。

雨と霧にけぶる木々や田畑の枯色は、はっとするほど美しい。

お兄さんは、一人で建てた農機具小屋の二階の小さな“書斎”に
私たちを招き入れてくださり、地図を見ていけと言う。
晴れていたら向こうの山の棚田が、“書斎”の窓からくっきり見えるのだそうだ。














筒に大切にしまわれていた地図を拡げ、みんなでのぞきこむ。
そして私は、あっと声をあげそうになった。
「栃の巨木」「~群生地」「熊穴」・・・、お兄さんの書き込みがびっしりあったからだ。




















あまりにも無防備に、いきなり目の前に差し出された貴重すぎるデータに、
私は言葉を失う。地図上に落とし込まれたそっけない単語の他に、
日々山に入り、山のことを知り尽くしているお兄さんの体には、
どんな膨大な知識がつまっていることだろう。
お兄さんにかなう里山・野生動物の研究者なんているだろうか。

お兄さんは、農機具小屋の周辺だけでなく、
このケビオカの山のいたるところに70個ほどの巣箱を置いているという。
いままでは、どんなにハチミツが採れないときでも、20箱くらいは
蜜が入っていたのに、今年は全く蜜が入っていなかったのだそうだ。

すべて熊やテンに襲われて、ミツバチたちはいなくなってしまった、
それくらい熊が増えていて、森に食べものがなくなっとるんだ、
今年ミツバチがいなくなってしまったから、来年は受粉ができない、
実がならないから、熊の食べるものはますますなくなってしまうだろう。














ミツバチの話をしていても、お兄さんの話は、すぐ熊の話になってしまう。
この辺りには、‘熊’の字がついた字(あざ)が3つもあるのだそうだ。

「あと数年もしたら、ミツバチはみぃんな、まちに移動する、
  もうここではミツバチが安心して暮らせない。まちでしか住めんようになる。
  熊のこと、山のこと、分かっとらん人が多すぎるんじゃ。」














ケビオカの風景の上っ面しか見ることが出来なかった自分を恥じながら、
それでもやっぱり、ケビオカの晩秋・初冬の風景は
「聡明さ」という言葉でしか表現できないくらい美しいと思い、
それなのに、そんなケビオカがすでにミツバチの暮らしにくい環境に
なりつつあるという現実を、どのように考えたらいいのか、分からない。

雨は小降りになってきた。畑の野菜を見せてもらいながら、
「ここでなら焼畑できそうやなあ。」 と話しかけるともなく声に出す。

「焼畑か? しよったよ、二十歳のころまでは。」
「えええ? 焼畑してはったんですか?! 
  何をつくってはった? 蕎麦? 焼畑のやり方まだ覚えてはる?」
「あっちから火をつけて、あの木のとこまで焼いとったなあ。
  蕎麦はつくらなんだ。ほとんど豆だ。粟なんかもつくっとったかなあ。」
「そうなんかあ。“焼畑豆”が復活できたら、すごいだろうなあ。」














なぜ焼畑のことが思い浮かんだのかと言うと、
現在日本でただ一人、焼畑の技術を継承しておられるという
宮崎県椎葉村のクニコおばあちゃんのテレビ番組を、先日見たからだ。

私はあいかわらずテレビのない生活を送っているのだが、
シャンデエルブの田中さんから「必見!」とお知らせをいただいたので、
録画してもらって見たのだ。素晴らしいドキュメンタリー番組だった。
NHKスペシャル クニ子おばばと不思議の森

この番組の監督をつとめた柴田昌平氏は、映画「森聞き」の監督だ。
映画「森聞き」公式HP

私の頭には、「ケビのおじぃと熊の森」というタイトルがぱっとひらめく。
「ケビのおじぃと熊の森」の未来の物語を紡いでいくことが、
お兄さんのお話を聞いてしまった私たちに託されていることなのだろう。

早速、豊岡の古民家に移住を決めた友人女子と、
これからも度々ケビオカに通おう、とにかく聞き書きをしようと話し合う。
なんといっても、彼女の旦那さんは、椎葉村の民宿「焼畑」で、
クニコおばばを撮影していたクルーに遭遇したという縁を持つ人なのだ。














日本ミツバチ、在来種、熊、焼畑・・・・
次々に学びのテーマを与えてくれるケビオカの奥深さ。


関連記事: ケビオカ
関連記事: ケビオカのきゅうり


4 コメント:

  1. こんな話題はめっちゃ興味あります。
    香美町のほかの人からもミツバチが入らんと聞きました。
    残念ですね。

    返信削除
  2. おおマルコ2011年11月12日 1:13

    すみやさま
    山のこと、神鍋でも本気で
    何か取組を始められないかなあ。

    返信削除
  3. あの日のことが浮かんできます!本当に貴重なお話。そしてとってもゆかいな熊話の武勇伝。今でも思い出すと笑ってしまいます。
    ぜひ、ドキュメントを撮ってください!

    返信削除
  4. おおマルコ2011年11月21日 0:44

    ミツバコさま
    コメントありがとうございます! うれしいです。

    私は、あの美しい霧の日を、
    ミツバコさまから受けた印象と共に心に刻んでいます。

    大好きなビクトル・エリセやタルコフスキーやの映画から
    受ける印象と同質のものを、ミツバコさまに感じました。
    そして私はアナ・トレントのあの大きな瞳を借りて、
    世界・但馬を初めて見たような気分になりました。

    ミツバコさま、本当に素敵でした。
    本当に久しぶりに惹かれる女性にお会いできました!

    春に、またお会いできますように(*^_^*)

    返信削除